「最後の装い」に関心 納棺師に注目
「納棺師」。葬祭業者の間でも聞き慣れない仕事が、映画「おくりびと」(本木雅弘さん主演、モントリオール世界映画祭グランプリ受賞)の上映を機に県内でも関心を呼んでいる。亡くなった人に死に化粧をし、死に装束を着せ、ひつぎに納める職種だ。葬儀・告別式の前に火葬にふすのが一般的な信州ではあまり重視されていないが、納棺師のいる数少ない業者には「映画のように見送ってもらいたい」「見送りたい」と問い合わせが寄せられている。
小海町で2年前に兄弟で葬祭業を始めた篠原耕一さん(30)は、父親を11年前に亡くした際、きちんとお別れができなかったという悔いが残っていた。そのこともあって家業のガソリンスタンドからこの業種に手を広げ、準備段階で知ったのが納棺師の存在だった。
病死の場合、大抵は死に化粧などを病院側でしてくれるが、服は浴衣やパジャマで化粧も簡単な場合が多い。納棺師は、闘病で乱れた頭髪をドライシャンプーで洗い、苦しみでゆがんだ死に顔もマッサージ。化粧で肌の色を良くし、安らかな表情に整える。死に装束も希望があれば死者が生前に好んだ服装を着させるが、その際、遺体の肌を露出させずに素早く着替えさせる技術も持っている。
特に事故などで遺体が傷んだケースに、その技が生かされる。生前の写真をもとに美容整形的な技術を用いて復元を試み、可能な限り遺族や会葬者に死に顔を見てもらえるようにする。
映画「おくりびと」は、納棺師の仕事に共鳴した本木さんの強い意向で実現した映画だという。映画ではきれいな状態の亡きがらだが、修業を積んで納棺師になった篠原さんは、遺族が遺体と対面して絶句するようなケースで呼ばれたことが何度かある。
体の90%にやけどを負い焼死した遺体を、人工皮膚をあて4~5時間かけて生前に近い状態に戻し、遺族へ引き渡したことがある。その際、「『お母さんに会えた』と泣いて喜んでもらえた」。篠原さんは「だれもやりたがらない仕事だが、公益性の高い仕事だと思う」と胸を張る。
納棺師は、古くは古代エジプトのミイラにさかのぼる。土葬が一般的な米国ではその技術も磨かれているが、日本ではここ数十年の歴史という。映画製作で納棺師の技術指導にあたった札幌納棺協会の長野営業所によると、県内では納棺師のいる葬祭業者は篠原さんの会社と伊那市の業者の2カ所。篠原さんは「人間の最期を尊厳を持って送る手伝いができるこの仕事を、この機会にぜひ知ってもらいたい」と話していた。
(2008年9月30日 asahi.com)


