献体登録 狭き門…希望者増、3年待ちも
自分の遺体を医学部や歯学部の解剖学実習に提供する「献体」の希望者が増え続けている。献体の意義の浸透のほか、「医学への恩返し」「人の役に立ちたい」という意識の広がり、死生観の変化などが背景にあるようだが、必要数を大きく超えると遺体保管庫が足りなくなるため、新規登録を制限する大学が急増。抽選で決める、動機を書いた文章で選考する、登録まで3年半待ちといったケースも出ている。
各大学や献体団体でつくる篤志解剖全国連合会によると、献体登録者数は1970年代半ばまで1万人台だったが、その後、右肩上がりで増え、昨年3月時点で21万6420人にのぼった。一方、実際の解剖は年3000体余り。以前は地方や歯学系の大学で不足しがちだったが、今は全国的にほぼ満たされている。
むしろ新規登録は、<狭き門>になっており、特に関東、近畿は計42大学中、31大学で登録が難しい状況。なかなか予約の取れない人気の寝台特急にたとえる希望者もいるほどだ。
愛媛大は申し込みを2月中旬~3月末に限ったうえで95年以降は毎回抽選。今年は約100人中、30人だけが当選した。広島大は年間の申込者から12月に150人程度を抽選する。「昨年の競争率は約2倍。2回続けて外れた人も多く、しのびない」という。
大阪市立大は60歳以上の市内在住者のみを毎月3~4人ずつ新規登録する方式で、申し込んでから3年半かかる。近畿大は2004年から新規登録を停止中で、問い合わせは多いが、再開のめどは立っていない。
大阪大は、大阪府北部と兵庫県の隣接自治体の居住者に限ったうえで、動機を詳しく書いてもらい、さらに献体団体が熱意を聞くなどして選考している。
なぜ希望者が増えるのか。篤志解剖全国連合会会長の坂井建雄・順天堂大教授は、82年に始まった文部大臣(当時)の感謝状贈呈と、83年制定の「献体に関する法律」が安心感をもたらしたと指摘。ボランティア精神の普及のほか、医学の恩恵を受けた患者の増加が「恩返し」の意識につながり、解剖への抵抗感も和らげた面があると見る。
他方、核家族化が進んで「死後に家族に迷惑をかけたくない」「墓をみてくれる人がいない」と、献体者の納骨堂を持つ大学を頼る人も少なくないという。
坂井教授は「献体団体の長年の活動を様々な社会的理由が後押しした。献体への高い意識と信頼は日本の誇り。それだけに登録制限するのはつらい」と話す。
礼儀欠かさぬよう
医師で作家の久坂部羊さんの話「昨年、私の患者の献体希望を二つの大学に伝えたら、どちらも『足りています』。その口調から希望者がかなり多いと感じたが、必要数を大幅に上回っているのは意外だ。通夜や葬儀を不要とする人が出てきたのと同様、死後に対する意識の変化だろう。尊い希望なのだから、問い合わせが多くても、応対に礼儀を欠かさぬよう願いたい」
(2008年9月14日 読売新聞)


