死別の悲しみとケア:1(坂口准教授)
故人は「生きている」。
心の中に居場所をつくり、共に人生を歩むのです。
核家族化が進む現代、近親者以外のサポートが必要
あなたは身近な人と死別した経験はありますか。愛する家族や友人を失ったとき、人はどんな悲しみに直面するのでしょうか。またどのようなサポートが必要なのでしょうか。最近少しずつ広がっている遺族らへのグリーフ(悲嘆)ケアについて、悲嘆学を専門とする関西学院大の坂口幸弘准教授に聞きました。
親しい人と死に別れた時の悲嘆とどう向き合うか。米国の心理学者ウォーデンは、遺族が取り組むべき課題の一つとして、「死者を情緒的に再配置し、生活を続ける」を挙げています。
「情緒的に再配置」とは、故人のことを忘れるのではなく、故人の新しい「居場所」を心の中につくること、見いだすことです。故人を自分の人生において大切な存在としてうまく持ち続けることともいえます。亡くなった人を思い浮かべ、相談相手として話しかけたり、自分の考え方や行動のモデルにしたりする人もいるでしょう。
「千の風になって」=キーワード(1)=という歌が大ヒットしました。「千の風になって あの大きな空を 吹きわたっています」という歌詞を聞いた時、「継続するきずな」の概念を感じました。そもそも日本人の死生観は、死者と生者との境界があいまいで、死者はこの世と隔絶した別世界に行くのではなく、身近に生きていると考える傾向があります。
例えば、お盆になると先祖の霊が黄泉(よみ)の世界から戻ってくる。仏壇に故人の写真を飾り、お供え物をして故人が生きているかのように振る舞う。こうした慣習を通じて、日本人は自然と故人とのきずなを維持し、故人の居場所をつくってきたのです。
しかし最近はそうした行事が形骸(けいがい)化して仏壇のある家も減り、故人とのきずなが以前より漠然としたものになった。そんな中、「千の風になって」のメッセージは、遺族に故人の新しい居場所の例を具体的に提示し、死別の悲しみに向き合う一つのヒントを与えたのではないでしょうか。昔ならこれほどヒットしなかったかもしれません。
グリーフ(悲嘆)とは、愛着や依存の対象を失うことに対する様々な心理的・身体的症状を含む反応をいいます。
通常の反応は、睡眠障害や食欲減退などの身体的反応▽悲しみ、怒り、抑うつ、罪責感、孤独感などの情緒的反応▽非現実感、幻覚などの知覚的反応▽混乱や動揺、探索行動=キーワード(2)=などの行動的反応――に分類できます。同様の体験をしても現れる反応には個人差があります。
喪失には、近親者の死だけでなく離婚や失恋、子離れ、転校、所有物を失うことなども含まれます。本来グリーフケアは死別悲嘆へのケアだけを指すわけではありませんが、遺族ケアと同義に使われることが多いです。
悲嘆の表れ方は、故人が病気で亡くなったのか、あるいは事故か自殺かといった違いで変わってきます。誰を亡くしたのかという続き柄や時間の経過も関係しますし、性差も指摘されています。また他者からの心ない一言によって、遺族の気持ちがさらに傷つけられることもあります。
核家族化や都市化が進む社会において、家族・親族や近隣の支え合いの力が弱くなりつつある中、身近な人以外からのグリーフケアは今後ますます必要になります。


